大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)1004号 判決 1969年5月30日

控訴人(原告)

関孝

代理人

青木定行

外二名

被控訴人(被告)

品川ダイハツ株式会社

代理人

小峯長三郎

外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し原判決別紙第二物件目録記載の建物部分を収去して同上第一物件目録記載の宅地二五坪二合を明渡せ。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。<以下省略>

理由

一〜三<省略>

四ところで株式会社の設立前にその設立後の営業に必要な敷地もしくは建物を賃借する行為はいわゆる開業準備行為として会社設立のために法律上または経済上必要な行為とは異なり、財産引受に関する商法の特別規定に服する場合のほか、設立中の会社の機関たる発起人の権限に属するものということはできないから、発起人がたとえ設立中の会社の名において右のような開業準備行為をしたとしても、その効果は設立後の会社に帰属するものではなく、無効な行為として、設立後の会社においてこれを追認することも許さないとするのが通説判例の一致した見解であるが、他面設立後の会社が新規契約として右と同種の契約を締結することは別に法の禁止するところではない。

いま本件についてこれをみるに、前記賃貸借契約が財産引受に関する商法所定の方式をふんでいないことは口頭弁論の全趣旨上明らかであるから右は無効な契約として、その効果を被控訴会社に帰属せしめるに由なく、被控訴会社において追認をなすことも許されないが、前段において認定したところに本件口頭弁論の全趣旨を加味すれば、「被控訴会社は昭和二七年一〇月六日設立以来前記賃貸借契約を承継したとの意思のもとに約定賃料を支払つており、一方関高市および控訴人も被控訴会社の役員として当然右の事実を知りながら、被控訴会社の前記土地建物の使用について、その後昭和三七年頃役員間に紛争が生じ本訴等の提起となるまでは、なんらの異議を述べたこともなかつた。」ことを認めることができるから従前右当事者双方ともに黙示的に前記賃貸借契約の承継を承認していたものというに妨げなく、無効な行為といえども、当事者双方諒解のうえ相互にこれを承認するときは、民法第一一九条但書の無効行為追認の法意に準じ、当事者の効果意思を尊重して、新たなる行為をなしたものと解するのが相当であり、しかも設立後の会社の同種新規契約の締結は別に法の禁止するところでないことは右説示のとおりであるから、本件の場合にあつては、被控訴会社が設立後に新規に関高市および控訴人との間に前と同様の内容の賃貸借契約を締結したと同視して差支えなく、従つてこの賃貸借を無効とすべき理由はない。<以下省略>(古山宏 川添万夫 右田堯雄)

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